幕 間
不思議だった。
この場所に立っているのは。
彼女への想いを紛らわせる為に、生徒の旅に同行した先で帝国の危機を知り、
そして再び戦場に立った。
彼女が舞う、その戦場に。
隣に立った時に感じた懐かしい香りは、彼女自身のものだったのか。
あの頃よりは声は低く、肌の色は若干くすんでいる。
けれど、
砂埃の中に揺らめく髪の毛は、変わらず黒く滑らか。
ぴんと凛々しく伸ばした背筋、
澱むことない真っ直ぐな黒い瞳、
紫電の如き剣の切っ先は、変わらないまま。
間違いなくレックス自身が知る、アズリアその人。
眩しい、甘い、痛い想いが蘇る。
眼前には、黒い雰囲気を纏った旧王国の兵士達。
悪魔と共に歩を進めるその空気は、恐怖以外の何物でもない。
空は晴れ、青く澄み渡っている筈なのに、この戦場はどこか暗い色を孕んでいた。
似ている。
あの島で起こった、あの戦いに。
恐怖・怒り・焦燥・絶望…そんな色の雰囲気は、いつまで経っても慣れない。
いつだって、悲しい。
どうして、何故、そんな思いがあるけれど。
今はただ止めなければ。
何も知らない帝国の人々に、こんな戦いを見せてはいけない。
そのために、俺が出来ること。
そっと隣を見る。
収縮し始めたウィスタリアスの光に、不安そうな表情を浮かべる彼女が見えた。
彼女の不安は全くその通りで。
本当は、上手くいくかどうか分からない、賭けのような剣との呼応。
ウィスタリアスが自分に危害を加えることはないが、まともに戦えるかは保証できない。
島から遠いこの場所で、剣を握ることが出来るのだろうか―確証は得られない。
しかし、何故だか自信があった。
自分は大丈夫だという不思議な実感。
それはきっと、彼女が傍にいるから。
大切で、大切で、長年求めて止まなかった彼女が。
恐れるものなんて、無い。
光が拡散する。
自分の髪が白く長く伸びていた。
そして、右手に蒼い一振りの剣が絡まるのが見える。
力が、じわじわと剣から流れ込んでくる。
ウィスタリアス―「果て無き蒼」と呼ばれるもの。
全力の力は出せないけれど、大丈夫。
気持ちはいつも以上に漲っている。
「敵に隙があるのは今のうちだ。…いけるか?」
彼女が抜剣姿に目を見張りながら、隣に並び立つ。
共に目の前に広がる軍団を見渡し、レックスはゆっくり頷く。
隣の気配があまりにも懐かしくて、ふと笑みが零れる。
久々に見るであろう彼女に見せるように剣をかかげ、自分に言い聞かせるように呟いた。
「アズリアが、一緒だから。」
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>自分の中で整理するために書いてみただけとです…(逃)