※ネス(アメル)ががんばりました。





それは、奇跡のような光景だった。


あの島での出来事に立ち会って以来、それ以上の不可思議な現象に出会うことは無いだろうと思っていたのだが。
そんな勝手な憶測は、この時をもって打ち破られた。








 ヒ カ リ 









初めは雪が降ってきたのかと思った。



淡く光るそれは、風に吹かれ、生きるもの全てを包み込んでいく。
魔剣により圧倒した悪魔と対峙していた兵士達は、皆揃って剣を下ろしていく。
悪魔達もまた、光に触れると苦悶の表情を浮かべて消えていった。

辺りは不思議と静寂に包まれる。
誰も一言も発さないまま、ただ光の降り注ぐのを見つめていた。


アズリアもそのうちの一人であった。
最前線にて振るっていた剣を、鞘へと仕舞い込む。
かちんと音を柄が音をたて、もう引き抜くことができないような心持で収まった。

「何なんだ…この光は…?」


空を仰ぎ呟くが、誰もその問いに答えることはできない。
光に触れると、今まで疲弊していた体が癒されていく。
かすり傷程度であれば、召還術を掛けられたかのように、塞がれていった。

それだけではない。

光を浴びた瞬間から肩の力が抜け、戦場特有の昂ぶりをもっていた心が、平穏な凪へと変化した。
緩やかな眠りに落ちているような、心の安寧。
誘われたその心が、兵士達の剣を止めた。


そしてアズリア自身も、荒ぶっていた戦闘への気迫を薄められてしまっていた。
その代わり、封じていた感情が堰を切ったように溢れ出していく。


それは強固な決壊を一発で壊す程の破壊力。
ただただ、彼に…―。



けれど、その感情に身を任せてもいいのだろうか?
膨大な感情の流れの前に、アズリアはただ立ち尽くしてしまう。

隊長の責務も忘れ。
みっともなく十余年も前の感情を持ち出して。
これで良いのだと諦めようとしたものを拾い上げて。


だが、

「アズリア隊長!」


その背を押すかのような声が、耳に飛び込んでくる。
そっと振り向くと、同じように覇気を薄められたような部下が立っていた。

「ギャレオ…?」
「行かなくて、良いのですか?」
「な…」

何もかもを見通しているような物言いに、アズリアは絶句する。
こちらを窺うような目線から、俯くことで思わず逃げてしまう。

「…まだ、ここは戦場だ。撤収の指示も、これから…」
「それくらいの仕事は、任せてください。
 撤収を任せられない程、自分は信頼が無いのですか?」
「それはない!お前になら…任せられる。」
「では、一体何を迷っているんです?」
「………」

強い調子で迫るギャレオから放たれる言葉から必死で逃げるように、アズリアは黙した。
初めてかもしれない。こんな風に部下から逃げるのは。
迷っている中身も原因も全て自分の中にある。


「夢に見るほど、好きなのでしょう?」


アズリアに合わせ、押し黙ったままでいたギャレオの口調が、不意に柔らかく変化した。
その声色と内容にはっと目を見開きながら、ゆっくり顔を上げる。
いつまでも決断が出来ないでいる上司を可笑しく思っているのか、日焼けた顔には苦笑いが広がっていた。
今まで共に戦場を駆け抜けてきた十余年。
ここまで彼がアズリアの内面に踏み込んでくることは、帝都を発つ日以来無かった。
けれどきっと、いつだってこの部下には伝わっていたのだろう。アズリアが誰を見つめ続けているのかを。


すっかり見抜かれてしまっている事に一種の気恥ずかしさは浮かんできたが、アズリアはギャレオの言葉に頷いた。


「…行って来る。」




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一旦のギブアップ…です。ヒュー!
とりあえず、ここに行き着くまで歯とか頭とかギリギリしまくった痕跡とか遺しておきます。
レックス出てねぇじゃん!(セルフツッコミ)



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